人間らしく働きたい。
自分にできることを自分の身の丈にあった規模で、
大きな借金を背負うことも無く、お客さんとのコミュニケーションを楽しみながら。自由に働く。
「そんなこと今の世の中でほんとにできるの?」
できるんです、自転車なら。
この講義では、自転車で開店準備中のゲストを招き、販売予定のお菓子などをつまみながら、「自転車で働く」ということについて海外や国内の事例を紹介しながら、教授と学生によるトークセッションを行います。
自転車で商売をすると売れすぎて困るらしい。なぜか?
仕事系自転車のサンリン自転車生活社を始める訳
text:三輪ノブヨシ
私が自転車でスウィーツを売る若い女性に会ったのは、もう6,7年前だ。吉祥寺の大正通りを、友人に作ってもらった大きめの木箱を自分でペイントした自転車に積んで走っていて、お客さんに呼び止められたところだった。「今日は何焼いたの?」とお客さんが聞く。なんと平和で幸せな感じなのだろう!「売れすぎて困るでしょう?」と私が聞くと、一日数回お菓子の補充するために家に帰るのだという。「自分で作っているだけなので、そんなに作れないんですけど、大好きなお菓子作りができて、みなさんに喜んでもらえるので、とっても楽しいです。」と彼女は言う。まさに小さな幸せを運ぶ少女だ。
彼女のように自分で作って自分で売るという、とても基本的で無理のない幸せなやり方は確実に広がっている。吉祥寺のジブリ美術館の前で、手作り玄米ワッフルを売る女性。「一個200円のワッフルだけではなくて、やさしい気持ちもいっしょに売りたいと思っています。安い原価で高く売るというのが商売だけど、それだとちょっと悪いことをしている気持ちになってしまうんです。本当に身体にいい物を安く提供して、そこに葛藤がないことが精神的にもいいんです。懐はちょっと寂しいかもしれないけど、心は愛情でいっぱい、みたいなスタイルで、必要以上に儲からなくてもちゃんと食べていけて、自分らしい生き方をしていきたいんです。この仕事を通して、見返りを求めないで優しくしてくれる人達、慈しみの気持ちというか、そういうあったかい気持ちを勉強した気がします。しばらくはこのスタイルでやれるところまでやりたいですね。」
もう一人、吉祥寺でブラウニーを売る男性。ミニサイクルに自分で作った看板とのぼりを立て、こんなところで? という場所で売っている。一日分をたった30分で売り切る。「すみません。僕これしか作れないんですよ。一人で作ってるんで。自分で作って自分で売りたいんです。他の人に任せたら自分の気持ちが正直にお客さんに伝わらないですから。自分にはこのやり方が一番だと思ってます。自分だけで完結していると、気を使わなくていいんで楽なんです。」こうして立ち話をしていても、お客さんが次々に来てしまう。その都度丁寧に、売り切れですと頭を下げる。「皆さんに支えられてるという実感もあって、いろんなものを皆さんから逆にいただいている感じです。買えなかったお客さんには申し訳ないんですけけど。自分としては充分生活できればよくって、無理して多く売るつもりはないんです。」
自転車でコミュニケーションを楽しみながら売る。がんばっていることもちゃんと伝わるし、謙虚さも自然に伝わる。そして徐々に支持されてることを自分でも感じられるようになる。そうなればリピーターも初めての人も、出会えたらラッキーだと思ってくれて、つい買いたくなってしまう。そんな移動式のお店を街中に! 自転車で働きたい人と巡り会いながらゆっくりと丁寧に、仕事用の三輪自転車を増やしていきたい。そんな自転車を見たら声を掛けてください。生活がちょっと楽しくなるはずですから。
(この講義は『自転車で働く(本気編)』のイントロダクションレクチャーです)